coffee beans

syzygyの焙煎について

長い旅路の果て

コーヒーほど手間のかかる飲み物もなかなかありません。私共ができるのはコーヒーの生豆を選択する段階からですが。コーヒー豆が我々の手に届くまでに多くの人々の間を経由しています。

コーヒーはいわゆるコーヒーベルトと呼ばれる赤道付近の暑い地域以外では栽培は難しい、と言われています。中南米、アフリカ、アジアなどの国々では生産者の方々はまさに手作業で収穫や選別を行っています。

フェアトレードの観点からも問題になるコーヒーですので、感謝の気持ちを込めて取り扱わせていただきます。




焙煎は難しいか?

もちろん、奥が深い作業であるとは思いますが、誰でも簡単にできる楽しい調理だと思います。

焙煎という作業はコーヒーというカフェインを含んだ果物の種を、そのままだと渋くて飲めないので、加熱して飲みやすくするということだと思います。

だから、焙烙、手網、フライパンでも簡単にできる調理です。私も、最初は手網からコーヒーの焙煎を経験しましたが、楽しく、得るところの大きい作業なので、もし興味をお持ちの方は一度試してみることをお勧めします。



しかし

いざ、家庭でやるとなると「チャフ」と呼ばれる薄皮が飛び散ったり、部屋中煙だらけになったり、手間、暇が必要だけど、思うような味に仕上がらなかったりするので、多くの人は二の足を踏むことと思います。

その点業務用のマシンは火力、排気吸気などが管理でき、かつ大量に安定した焙煎ができるので、その分の対価を支払っても「市販のコーヒー豆を買ったほうが懸命だ」と考える方が多いのは当然だと思います。




コーヒーは買って飲むもの?

コーヒーの焙煎は知らない人にとっては謎が多く、焙煎業者もその特権的立場を利用している嫌いがあります。「生豆の個性を生かし」と書かれるとなるほどそういうものか、と思ってしまいます。

しかし、コーヒーの好みや考え方というのは様々で、どれだけ最高の焙煎と主張しても、万人に好まれるコーヒーはないといっていいと思います。

私自身、昔からコーヒーは好きでしたが、焙煎を始めてまだ数年で、ベテランでも何でもありませんので、とても「私の焙煎は最高の焙煎です!」とはいえませんが、少なくともコーヒーにどのようなイメージを持って、どのようにそのイメージに近づけようとしているのか、ということをこの文章でお伝えできればと思っています。



焙煎機は半熱風式

syzygy cafeのコーヒーを一手に担っている焙煎機は珈琲サイフォン社製の半熱風式の焙煎機。2010年製で、以前この場所にあった「馬カフェブリッツ」さんが残していったものです。

熱源はプロパンガス。排気の調節はインバータ式のファンで行われます。

焙煎後の豆の冷却のための別系統の排気もついているので、迅速に次の焙煎ができます。


ドラム内部

「半熱風式」はドラム下部から炎で熱しますが、ドラム周囲に穴が開いておらず、豆に直接炎が当たりません。その代わり、背面の穴から熱風が吹き込んできます。

豆に直接炎が当たる機械を「直火式」、逆に熱風だけで焙煎する機械を「熱風式」といいますが「半熱風式」はその中間に当たります。

それぞれ一長一短ありますが「直火式」の場合「豆の個性は出しやすいが豆の内部の水分が抜けきらない」という問題があり、また「熱風式」の場合は「均一に焼けるが豆の香りが飛んでしまう」という問題があります。

「半熱風式」は上記二方式の中間でオールマイティーでどんな豆にも対応できる、という位置付けですが、炎が直接当たるドラムの温度と、背後から吹き込む熱風の温度に差が生じるため注意が必要です。

いずれの焙煎機にしても同じですが、適切な温度と排気の管理が重要になります。


まずはハンドピック

生豆は出荷の段階で選別されたものが多いですが、国によって基準は様々。改めて焙煎前に選別します。虫食いや、極端に水分の多いもの少ないものなどをより分けていきます。なかには小石が入っていることも!



いよいよ焙煎

あらかじめ200度まで空のまま熱し冷却します。こうする事で、窯全体が温まり温度の上昇が安定します。

豆の投入は100度前後。豆は写真の「ホッパー」から一気に投入します。


温度が大事

生豆の投入後、窯内部の温度は一気に下がります。生豆の温度と量、室内の温度などによって下がり方がその都度違います。

生豆投入後、30秒程度で点火しますが、点火した後も、窯内部の温度は下がり続けます。

その後、温度は上昇に転じますが、その最低の温度を「中点」といい、豆の内部に対する熱の伝わり方に影響します。

要するに低温でゆっくり調理するか、高温ではやく調理するかの違いですが、はやいと中まで火が通らず酸味やエグ味が残る、ゆっくりだと逆に中が焦げたり、風味が飛んでしまう。

コーヒーの焙煎でも他の料理と変わることなく、素材に対する熱の通し方が一番重要になります。


温度と排気量の管理

すべての焙煎の工程はデータとして記録しておきます。

記録するのは、気温、湿度、経過時間、温度、排気量など。

温度の上昇率は豆内部への熱の伝わり方に重要なため、記録をとります。温度計の数値とタイマーを見比べて、一度上昇するのに何秒かかるかをカウントします。

記録したデータは次回の焙煎の時に参考にします。


豆の水分を抜く

豆の状態は「サシ」とも呼ばれるテストスプーンで窯の中からすくい確認することができます。

150℃くらいまでは豆の内部の水分を抜く「蒸らし」の時間として考えています。

浅煎りの豆と深煎りの豆又は、水分量の多い豆少ない豆で蒸らしを加減します。

酸味を強調したい豆は焙煎時間が短いため、その時間までにできるだけ効率よく水分を逃がさなければ、水分とともにエグ味なども残ってしまうので、充分蒸らします。

逆に、深煎りにしたい豆や水分量の少ない豆などはあまり蒸らしで先に水分を抜いてしまうと、芯が焦げてしまうので蒸らしすぎに注意します。

いずれにしても最終的に焼きあがったときの火の通り具合をイメージして火力と排気量を操作します。



排気量の確認

窯内部にどの程度空気が通っているかは上部のホッパー部分のふたを一時的にはずして、直接手を当てて確認します。

手に熱風が当たる場合は排気が弱く、当たらない場合は排気が強く、その中間が「ニュートラル」と呼ばれる調度良い状態と言われています。

しかし、これもあくまで目安に過ぎず、火力や豆の量によって変わります。



一ハゼは185℃前後

水抜き後、豆は徐々に茶色く変色し徐々に膨張してきます。そして内部の組織が破壊され「パチパチ」とハゼる音が聞こえてきます。その後にもう一度ハゼはおきるのでこの段階でのハゼは「いちハゼ」と呼びます。

ハゼの音の大きさは豆内部の水分量と関係があるらしく、水分が多く含まれている豆のほうが激しくハゼます。激しいほどいいかと言うとそうではなく、充分に水分が抜け切れていないとも考えられます。適度なハゼかたを理想としています。

一ハゼ以降、排気を少し強くするとともに、できるだけ焼きむらを少なくするために火力を少し下げて温度の上昇率を緩やかにします。


二ハゼ以降は大忙し

二ハゼは緩やかに始まります。「ピチピチ」と小さな音が徐々に広がるので、ガス圧を下げ、排気量を更に増やします。

目的の焙煎度合いに近くなったらガスを切り、冷却槽の運転を開始します。

後は温度を確認しつつテストスプーンで豆を取り出し、色、香り、煙、ふくらみ具合などを目と鼻などを使って仕上げのタイミングを計ります。



目標とするポイント

ご存知の方も多いと思いますが、コーヒー豆は浅煎りの豆は酸味が、深煎りの豆は苦味が強く出ます。

豆それぞれ産地、品種、処理方法などによって酸味、香りなど特徴があり、コーヒーの味を決定的に左右する煎り止めのタイミングはsyzygyでは大雑把に言うと二つに分けています。

一つは酸味を特徴とする豆で、エグ味がなくなり酸味をできるだけ感じられるポイント。

もう一つはその酸味が甘みに変わり、苦味が強くなりすぎないポイント。

しかし、この焙煎度合いは一般的に言うとシティーとフルシティーの違いくらいで極端に浅煎り、深煎りの豆は今のところ作っていません。

以上、二つのポイントのうちsyzygyでは後者のポイントの豆の割合が多くなっていますが、やはり目指したいのはコーヒーのコクだからです。

酸味もコーヒーの味を豊かにする一つの要因だと思いますが、なんと言ってもコーヒーを飲んだ時に味わう独特のコクを表現したいと思っています。

数分後、数時間後でもその独特のコクを舌や喉が思い出して幸福感を味わえる、そういった飲み物を他になかなか思いつきませんし、そういったコーヒー豆を作りたいと思っています。


「均一さ」との戦い

コーヒーの焙煎について求められるものの多くは「均一さ」にあるともいえます。

それは豆一粒の内側と外側の均一さであったり、一バッチ(一回の焙煎をこう呼びます)の豆の中での均一さであったり、他のバッチとの均一さであったり(これは気をつけなければなりません)。

確かに、水分の多い豆などは内部に火を通すのが難しく渋みなどが残りやすいし、また、豆の銘柄によっては生豆で仕入れる段階で、水分量にばらつきが多くどうしても焼け具合が一粒ずつ違うこともあります。このような豆で煎れたコーヒーは「主張がわからない、個性のあまりない曖昧なコーヒー」ということになるかと思います。

多分、このような焙煎は技術的に失敗ということになると思いますが、しかしそれがイコール「まずいコーヒー」と繋がらないところがコーヒーの面白いところだと思います。

人間の味覚は面白いもので実に微妙な味の違いを口の中で比較検討しているように感じます。スイカに塩をかけると甘みを感じるように、コーヒーの場合も苦味の中に酸味を足すことによって苦味が強調されたり、その逆もあったり、複雑な作業をしているように思います。

面白いコーヒーのブレンドがあって、それは同じ品種の豆を浅煎りと深煎りでブレンドするだけなのですが、豊かな味わいのブレンドになります。

だから、一粒の中でまるでブレンドされた豊かなコーヒーを作ることも正解だと思いますし、ある一点に特化して焙煎されたコーヒーも正解だと思います。

現状では「この豆は甘みを強く出したい」とか「酸味を強く出したい」というように一つの品種に対してイメージを持ってそれに沿うような焙煎を心がけていますが、この先全く違うアプローチをすることがあるかもしれません。

焙煎をしているとたまにいつもと全く違う事をしてみたくなって、実際にしてみるのですが、すると「こんな味があったのか!」と驚くこともあります。そうしてみると、確かにコーヒーの焙煎は「奥が深く難しい」ということになりますが、何よりも楽しんでこの作業ができることに喜びを感じています。

以上、だらだらと長くなりましたがsyzygy coffee beansの焙煎について書かせて頂きました。

syzygy cafe 店主 小笠嘉士